韓国の時事総合月刊誌である<月刊朝鮮>に2023年1月号に掲載された内容を月刊朝鮮社の著作権許可を受けて日本語に翻訳して提供する。
ここ10年余りの間、自動車産業は息詰まるような変化を経験した。 代表的な事件を取り上げると、2009年にゼネラルモーターズ(GM)が破産し、翌年トヨタは約1000万台の車をリコールした。 2015年フォルクスワーゲン(VW)は、米国の排気ガス検査に合格するためにソフトウェアを不正に操作し、5000億円の罰金を米政府に支払わなければならなかった。 年間1000万台の生産能力を備えた自動車メーカーのビッグ3がそれぞれの問題点を露出し、危機に陥ったのである。
その間、米国のシリコンバレーで誕生した「テスラ」という企業が既存の自動車メーカーが作っておいた、まるで堅固な城壁のような壁を取り壊して進入し始めた。また、その崩れた擁壁の隙間にBYD、ソニー、アップルのような企業が自動車産業に新たに参入した。その一方、半導体を確保できず、自動車工場が生産を停止し、サプライチェーンの危機が続いている。 今、自動車業界では一体何が起こっているのだろうか。 一寸先も見通せない自動車産業の大転換期に、韓国の企業はどのように対応すべきなのか。そのヒントとして、破壊的革新を先導するテスラ、今まで自動車業界の王座を守ってきたトヨタの対応方式を比較することは大きな意味がある。
「ゲームのルール」が変わる
現在、自動車産業がどのような方向へと進んでいるのかを正確に把握するためには、まず歴史的観点から 本質的な変化を見なければならない。現代人の生活に最も大きな変化をもたらした3大発明は何だろうか。それは19世紀に作られた「自動車、電球、電話」である。以後、19世紀末から20世紀初めはこれらを使用できる「道路網、電力網、通信網」が構築され普及が拡大した。ここでいう「網」とはネットワーク、すなわち接続を意味する。初期段階では道路網、通信網、電力網が各々独立的に機能したが、次第に連結し始めた。例えば電気を作るために発電所が建設され、発電のために必要な石炭を供給する道路網が作られた。自動車が普及すると鉱夫は車を購入し、車に取り付けられたラジオを聞きながら通勤した。
それから他の移動手段すなわち船舶、航空などが加わり、交通システムとして進化、発展を遂げた。エネルギー、通信もシステム化された。その一方、自動車業界は電気自動車、自動運転車、コネクテッド車へと進化し、今や「通信、エネルギーシステム」が統合されている。その結果、現在、自動車はシステム(電気、通信、交通)のシステム、すなわちメタ(meta)システムであり、現代文明の総和である。そのため、IT電子会社、通信会社も自動車産業に関わり始めた。これはまるで自動車産業が他の産業まで飲み込んでしまうかのような勢いである。今後自動車産業が追求すべき本質は、移動という自動車の持つ本質的機能に加え、エネルギーシステム、通信システムをどのように盛り込むかがカギとなっている。
このような変化を加速させたのは、イーロン·マスクという怪物で、彼は自動車業界のゲームルールを変えてしまった。
異なる次元の競争
今の自動車産業の競争構図は、次のような点で過去とは大きく異なる。
第一に、伝統的な自動車企業と新生企業との競争である。今までは1位と2位の競争であった。1950年代にはフォードとGMの競争構図、その後はGMとトヨタ、そしてトヨタとVW(フォルクスワーゲン)の競争構図へと変わっただけだ。その間に、韓国の現代自動車が競争に参入し、既存の業界を緊張させるような競争構図の変化も生じた。ただそれはグローバルメーカーに成長するストーリーに止まった。ところが、今の競争は、わずか100万台の車を製造する会社(テスラ)が2030年までに2000万台を製造するという野心を持ち、1000万台を製造する会社(トヨタ)に挑戦状を突きつける構図だ。
第二に、次元の違う競争である。以前の競争は自動車産業どうしの競争であった。 しかし、今は自動車とIT企業の競争構図だ。テスラのCEOであるイーロン·マスク本人がシリコンバレーでペイパル(Paypal)という電子決済システムを作った人物で、ペイパルを売却した資金でテスラに投資し、CEOになったのである。 そのためなのか、テスラの経営陣は実に多彩だ。例えば、車両開発(Vehicle Engineering)担当はホンダ、デザイン担当(Chief Designer)はマツダ出身で、グローバルサプライチェーンはアップル出身、CIO(Chief Information Officer)はHP出身である。また、国別では代表的な工業都市である韓国の蔚山(ウルサン)、デトロイト、名古屋とシリコンバレーとの対決でもある。まさに異次元の競争だ。
第三に、新規参入者は既存の秩序を破壊したがる傾向を持つ。テスラはバッテリーとモーターを利用し、既存の石油とエンジンという自動車産業の秩序を破壊している。既存メーカーが複数の鉄板を丹念に溶接して車体を作ったとすれば、テスラはメガキャスティング(Giga Casting)と呼ばれる機械を使い一気で車の部品を作るし、また、強力なソフトウェア技術を基にしてハードウェア中心である既存の自動車メーカーを脅かしているのである。
その上、各国は自国の企業を保護するために各種の干渉を加え、状況はより複雑になっている。そのため、今後の自動車産業の行方を予測することは非常に難しくなった。
テスラ対トヨタ
自動車産業の競争様相が変わることにつれて、評論家たちの間でも激しい対立構図が形成された。未来車の姿をめぐって、EV(電気自動車)だけが唯一無二の存在だと考える人たちは「 オンリーEV(EV Only)派」と表現することにする。メディア放送人、証券会社のアナリストの多くは、かなり積極的に意見を述べ、テスラを熱烈に擁護する。
その一方、EVも良いが、HEV(ハイブリッド)、FCV(水素燃料車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、ICE(既存内燃機関)も作って顧客に提供しなければならないと主張する人たちもいる。 EVも含んで多様な動力源間の競争が消費者にも地球にも有益だと主張する派である。EVも含まれるという意味で、これらの人たちを簡単に「EVを含む派(EV Included) 派 」と表現できよう。まさにトヨタが代表的である。
「EVを含む派」には主に自動車業界に従事した経歴を持つ人や日本人の学者が多い。早稲田大学の藤本隆弘教授が代表的で、2022年2月に発表した「地球温暖化問題に対する自動車産業の「総力戦」について―「電気自動車オンリー論」の誤謬―」というの論文で、「オンリーEV派」の論は誤判だと主張している。既存メーカーが正確にどこへ向かうのか、公言をためらっている間に、トヨタはEVも良いが、EVは多様な動力源のオプションに過ぎないという意見を前面に出している。その点では「オンリーEV派」の非難を一身に受けている。
このように相反する主張の代表者であるテスラとトヨタは、<表2>で示したように、CEOのカリスマ性、自動車設計の思想などが大きく異なる。テスラとトヨタの対決構図を把握することは、現在の自動車産業の競争構図を理解し、韓国企業が未来に備えるのに大いに役立つ。
「世紀の狂った天才」テスラ。
イーロン·マスクはテスラと同義語のように扱われている。彼は幼い頃からSF小説とSF映画に夢中になっていた変わり者の天才で、人類を火星に移住させるという大胆な夢も持っている。
一体、彼は何を考えているのだろうか。2010年、米国の時事週刊誌「ザ·アトランティック(The Atlantic)」はイーロン·マスクとのインタビューで、「電気自動車、宇宙開発、太陽熱事業を同時に開始することになったきっかけは何か」と質問した。これに対して彼は「大学時代から一貫して①インターネット②持続可能エネルギー(sustainable energy)③宇宙開発(space exploration)が人類の永続的な繁栄を作り出すと考えてきた」と答えた。この3つはイーロン·マスクを理解する上で重要なキーワードである。
実際、彼が行った事業を見てみよう。太陽熱を電気エネルギーに変えるソーラーシティ(SolarCity)、排気ガスなしで走る電気自動車メーカーのテスラ、例えばソウルから釜山まで20分で行けるほどの速度を出す超高速真空列車ハイパーループ、再利用の可能なロケットと低軌道の人工衛星網であるスターリンクを作ったスペースX、そして最近買収したツイッターがある。
これらの事業は一見、一貫性のないように見えるが、人類繁栄のための「3つのキーワード」という立場から見れば一脈、相通じている。すなわち、彼が繰り広げてきた事業を土台にして人類の姿を想像してみれば図のように描かれるのではないか。普通の人には想像しがたい宇宙的スケールである。最近、インターネット上ではイーロン·マスクがスマートフォンを作るという推測も飛び交っている。スマートフォンはこの図では「画龍点睛」のように見える。そして驚くべき点は、彼は前述の企業を通じて夢を実現させているところである。(『図』は、2022年8月の『日経ビジネス』に掲載された池松由香の記事を基に再構成したものである。)
彼はまた、ワーカホリックで「週に40時間働いては世の中を変えることができない。世の中を変えるためには週100時間以上働かなければならない」と話す。2018年にモデル3の生産が工程上の問題で支障を来たし、「生産地獄」に陥った時は週120時間働き、睡眠薬に依存して工場で寝泊りするほどであった。仕事に打ち込むその情熱のおかげで「世界最大の電気自動車メーカー」のテスラが誕生したのである。
「オーナー家の模範生」豊田章男
1956年生まれの豊田章男(66)の経営スタイルはイーロン·マスクとは大きく異なる。また、二人の家庭環境や育ちも違う。イーロン·マスクは離婚した両親のもとで育ち、学校では笑い物の対象にもなった。一方、章男はトヨタを創業した豊田喜一郎(1894~1952)の孫である。大学で経済、物理学、エンジニアリングを学んだイーロン·マスクとは異なり、章男は慶応大学で法学を学び、バプソンカレッジでMBAを修了した。
イーロン·マスクは米国で創業して大金を稼いでテスラを買収し、CEOの地位で自動車事業を始めた。これに対して、章男は1984年にトヨタに入社して工場で生産管理業務を担当することからスタートし、営業部門では「業務改善」の活動をするなど、着実に基礎から学んだ。以後、会社の反対を押し切って「GAZOO」という自動車情報提供サイトを成功させ、これを踏み台にして役員に昇進し、2005年副社長を経て2009年6月、創業家の出身としては14年ぶりに会社代表を務めるようになった。まさにオーナー家の模範生で、自らの力量を証明して会社の重責を負うようになったのである。
二人の共通点は経営過程で大きな危機を経験したことである。イーロン·マスクの場合、2002年に創業したスペースXのロケット発射が2006年から3回連続、失敗して不渡りの危機まで追い込まれたが、4回目の発射で成功し辛うじて危機を克服した。
章男も09年の就任直後から様々な危機に直面している。2009年は世界的な金融危機で自動車販売が急減し、トヨタは71年ぶりに営業赤字を出した。2009~2010年には不運が重なり大規模なリコール事態が発生し、章男社長は全世界の人々の前で涙の謝罪をしなければならなかった。 特に2011年は厳しく、同年3月の東日本大震災で工場稼動が長期間停止し、10月にはタイ洪水で部品メーカーの数百社が浸水し、再び工場稼動を中断しなければならなかった。2008年に初めて世界販売台数の1位を達成し、好調だったトヨタは、2011年には販売台数がGM·フォルクスワーゲンに次ぐ3位に落ちた。これで「悲運の章男」というニックネームまで付けられた。
しかし、彼は最悪の危機を素早く克服した。翌年の2013年、トヨタは再びグローバル販売1位の座を回復したのである。章男社長は危機に直面した当時、現場に権限を一任し、災難に備えることができるよう非常サプライチェーン運営体制を整備した。そのおかげで、2016年の熊本地震の際、16個所の工場のうち15個所の工場の稼動が中断されたものの、2週間で全工場を再稼働させることができた。
章男社長は当時、役職員に難しい言葉を言わなかった。ただ「より良い車を作ろう」というトヨタの核心精神、すなわち「改善」哲学を強調した。イーロン·マスクが大胆に未来を描き、その変化を一足先にリードするリーダーなら、トヨタは変化に対応することを優先する戦略を取っている。トヨタは2021年の統合報告書で「未来を予測するより変化に対応できることが重要だ」と指摘した。これはトヨタの哲学であり、章男はその哲学の忠実な継承者である。
「サイバー世界」から「慣性の世界」へ
テスラが誕生したシリコンバレーは、その名からも分かるように、半導体産業の本拠地である。 半導体は質量が9.1×10-31kgに過ぎない電子の動きを利用して、大規模な情報を保存し処理する。急速な半導体技術の発展に支えられ、シリコンバレーに在るグーグル、メタ(フェイスブック)、アップルのような企業はインターネット、ソーシャルメディア、スマートフォンの運営体制(OS)のような分野で独占的地位を享受している。情報を保存するサーバのことを軽さのため、クラウド(雲)と呼ぶ。質量を無視する電子を利用することから作られた用語である。
これに対し、自動車は1、2トンの質量を停止状態で、5~10秒で時速100km/hに加速させる慣性の法則が支配する製品である。重力、慣性が支配する物理世界における技術的進歩は電子産業とは違って速くない。日本の製造業を「モノづくり」と表現するが、ここでいう「モノ」とは物、すなわち実物を意味し、結局質量を持つ。その領域における強者はやはりトヨタだ。最も効率よく実物を作るのがトヨタの生産方式である。
最近、性能が良く安価なセンサーが多く作られている。そのセンサーを地上にある物(自動車、工場の機械など)に貼り付けることによって様々な情報を取得しやすくなった。第4次産業は各種センサーで取得した情報を上空のクラウドにアップロードし、コンピューターで計算して地上にある実物を効率的にコントロールするという発想から出来た言葉である。実物にセンサーを貼り付けて情報を取得する技術をIOT(Internet of Things·モノのインターネット)と呼ぶ。
普通、企業は一つの領域、すなわち質量のないサイバー世界か、もしくは質量のある実物の世界で強みを持っている。ところが、イーロン·マスクはそうではない。サイバー世界であるペイパル(電子決済システム)で成功を収めると、今度は慣性(質量)の世界に挑戦し、テスラとスペースXという事業を成功させたのである。
テスラの自動車設計の思想
そのためか、自動車に対するテスラの感覚は格別である。従来、自動車メーカーは、5~6年が過ぎれば車をフルモデルチェンジ(Full Model Change)してサイズを調節し、デザインを変更して消費者が新しい車を購入するよう誘導してきた。
これに対して、テスラは車の外観はそのままにして、2~3年に一度電気電子アーキテクチャをフルモデルチェンジしている。「電気電子アーキテクチャ」とは、車両に使用する半導体と各種の電子部品を連げる構造を意味する。従来の自動車には部品をコントロールするために部品ごとに半導体が入った。これを「分散型システム」という。ところがテスラはそのような構造を改善し、「中央集中式電気電子システム」を作り出した。テスラは2014年9月に第1世代電気電子アーキテクチャを発表して以来、2016年10月に第2世代、2017年8月に第2.5世代、2019年には完全なる中央集中型である第3世代を発表したのである。そして、第3世代になってからは自動運転のための半導体チップを自主的に設計し、サムスン電子の14nm工程で委託生産している。従来の2.5世代半導体に比べると、計算性能は21倍に上がり、コストは20%削減した。
2023年には第4世代が新たに開発され、普及するものと予想される。自動運転に用いられる、周辺を認識するカメラモジュールが第3世代では100万画素だったが、第4世代では500万画素(サムスン電気製作)が使用される予定である。半導体チップ(自動運転用コンピュータ)も新たに設計し、TSMCの4~5nm工程に委託生産すると知られている。工程の線幅が短くなるとエネルギー効率が良くなる。テスラは他の自動車メーカーが真似できないずば抜けた電気電子アーキテクチャを作り出した。そして、重さのないクラウドで空気を横切って、すなわちOTA(Over The Air)方式で車両ソフトウェアをアップデートさせている。
トヨタの和魂洋才
「和魂洋才」とは伝統精神を基に西欧の文物を受け入れるという意味で、日本近代化の要諦である。今のトヨタの次世代自動車への対応方式も「和魂洋才」に似ている。世界1位の自動車メーカーらしく、自分なりの哲学を維持しながらテスラを学び、競争していくという方式である。
トヨタは実物世界の競争力を基にサイバー世界における変革を試みている。実物世界の核心は工場で車両を生産することで、トヨタはすでに自動車生産方式の典型であるトヨタ生産方式(TPS)を作り出した。TPSは市場に柔軟に対応する生産方式である。大量生産で売れない場合、多大な損害を被るのはよくない。しかし、たまたま予測が当たって大ヒットするのも喜ばしくはない。市場の変化に対応できるよう、持続的な改善を行うべきだと信じている。また、トヨタ(Toyota)のTをトータル(Total)のTとみなし、構成員全員が改善作業に参加するような文化を創り出そうとしている。一人の優れた天才が率いる組織も偉大だが、構成員全員が合理性のために精進する組織を作ることも容易ではない。テスラは前者、トヨタは後者に近い。
テスラが巨大な工場を追求し、ギガファクトリー(Giga Factory)を作ったとすれば、トヨタはコンパクトな工場を追求する。シンプル(Simple)、スリム(Slim)、コンパクト(Compact)がトヨタ工場が追求する核心キーワードである。投資費用と運営費用をできるだけ減らし、車を少なく生産しても利益が出るように工場を設計する。狭いスペースに多くのロボットを設置することによって、労働生産性を上げ、作業者の数は減らす。具体的にいうと、例えば2022年10月にトヨタグループのダイハツは50年ぶりに京都工場をリニューアルした。350億円を投資して生産キャパを13万台から23万台に引き上げ、生産性を2倍向上させたのである。それと共にダイハツは「流行る人工知能(AI)技術を使わず、現場における着実な改善の蓄積によって成し遂げた成果」と自慢した。労働者の頭脳をコンピューターよりも大切にしている。
トヨタの未来車の戦略
トヨタの次世代自動車に対する準備も容易ではない。バッテリーの場合、パナソニックと共に1996年にPEVE(Primearth EV Energy、トヨタの持分の80.5%)を作ってハイブリッド車のバッテリーを自主製作し始めた。 そして2020年に再びパナソニックとPPES(Prime Planet Energy & Solution、トヨタの持分の51%)というバッテリー会社を作った。PPESが発足した当時、5100人で出発したが、トヨタ出身は600人でパナソニック出身は4500人であった。パナソニックから来たエンジニアはリチウムイオン電池で有名な三洋出身であった。かつてリチウムイオン電池の名家であった三洋が不渡りを出してパナソニックに買収されたのである。今やその人材がトヨタの系列会社でバッテリーを開発する作業をしているのである。そのように蓄積したバッテリーの技術でトヨタ独自の工場も建設中である。
未来自動車になくてはならない分野である半導体においてもトヨタはそれなりの実力を持っている。トヨタは1989年から自主的にハイブリッド車に搭載される電力半導体を生産しながら、半導体工程のノウハウを学習してきた。そのような能力があったため、2011年の東日本大震災で車両用半導体メーカーであるルネサス工場が壊れた際にもトヨタが主導して工場再建を成し遂げたのである。車両用半導体の3位のメーカーであるルネサスの持分を見ると、筆頭株主はINCJという官民ファンドで、デンソーとトヨタが2大株主である。日本法に基づき、2025年3月までにINCJの持分は全て民間に売却することになっている。デンソー·トヨタが筆頭株主になる可能性が高い。少なくともトヨタはバッテリーと半導体分野ではそれなりの布石をすでに打っているのである。
ジェームズ·カフナー
残るのはテスラが誇るソフトウェア分野である。すなわち「車両用OS」にどうやって追いつくのかがカギである。分からなければ、先生を招いてひざまずいて学ぶというのがトヨタの基本方針である。スタンフォード大学で教え、グーグルでは自動運転チームを率いた経験のあるジェームズ·カフナー(James Kuffner)をトヨタの子会社であるウーブン·プラネット(Woven Planet)社長に迎え入れた。また、多くのソフトウェア人材を集めるために、東京の中心地である日本橋に研究所を設立した。ウーブンプラネットはシリコンバレーのソフトウェア開発方式である「スクラム(Scrum)」を導入し、社内で伝播する役割も果たす。このようにしてトヨタは2025年までに車両用OSである「アリン(Arene)」を作る計画である。
面白いのは章男社長の息子である豊田大輔がそこで働いていることである。大輔は父親と同じく慶応大学法学部を出てバプソンカレッジでMBAを取得したが、会社経験は全く異なる。大輔はトヨタに入社してエンジンのソフトウェア開発部署で勤務し、今は自動運転、人工知能を開発する組織で働いている。トヨタの生産方式に対する学習が過去のトヨタ帝王学の基本だったとすれば、今はソフトウェアが新しい帝王学の基本コースになったと見られる。
●過去の成功体験はもう通じない
自動車産業は今、混沌の真っ只中にある。かつてないほど変化が速く、多様なプレーヤーが参加している。各国の政府は引き続き新しい規制を作り、混沌を加重させている。わずか数年前まではイーロン·マスクを株式詐欺師と罵倒していた人が、今はテスラ礼賛論者になったりする。考えが変わったのか、雰囲気によって言葉を変えたのかは分からない。自動車生産方式の典型であるトヨタ生産方式(TPS)も、もはや大したことではないと主張する専門家も出た。このような状況であるだけに、変化の本質を冷徹に把握できる能力が重要である。
まず、韓国企業の実力を冷静に把握してみよう。自動車技術が専門化し、多様化するにつれ、「スーパーエンジニア」でなければすべてを分かりにくい状況となった。特に、よく加工されたレポートよりは実務者の意見を聞きいれることができなければならない。しかし、多様な分野の実務者の意見を聞きいれる能力を持つことは実に難しい。したがって、最高経営者は私心のなく、技術的洞察力のある人を重用しなければならない。
第二に、過去の韓国企業の成功体験はこれ以上、通じない可能性があると思った方が良い。ディスプレイ、DRAM半導体産業の主導権が日本から韓国へと移った。しかし、電気自動車用バッテリーも成長経路が同じかどうかは疑問である。ディスプレイとDRAM半導体は、ライフサイクルの短い電子製品に使用された。数年に一度コンピュータを買い替えるのに高い品質の耐久性は要求されなかった。
ところが、車両用バッテリーは違う。車両の平均的な使用寿命は15年であり、廃車する際のバッテリーの処理など多様なイシューが散在している。最近、半導体も尋常ではない。過去の半導体は18ヶ月ごとに半導体の集積度が2つになる「ムーアの法則」が適用され、その時韓国企業が急速に成長した。だが、今や半導体工程が10nm以下に微細化され「ムーアの法則」も当たらない。半導体工程の微細化によってより高純度の材料を使わなければならず、設計パラメータ、設備間の相互影響度が高まったためであろう。設備、材料分野の企業と緊密な協調が求められる時点である。TSMCが日本に工場と研究所を建て、日本企業と協力しているのも、まさにそのような点が作用したと見られる。
韓国資本主義、よりダイナミックに
第三に、ソフトウェアは容易ではない分野である。 ソフトウェアは質量のないサイバー世界で動き、高度な知識基盤の産業であるためだ。その一方、自動車は質量のある世の中であり、工場には巨大な設備があり、労働者が働く。工場設備がすべて似ていても、使用した履歴によってそれぞれ異なる特性を見せる。
質量のないサイバー世界のエンジニアは、このような点をなかなか理解しようとはしない。 しかし、実物の世界をコントロールするソフトウェアを作ろうとするなら、そのような点を理解しなければならない。自動車企業がソフトウェア文化を理解しなければならないが、反対の努力も必要である。トヨタの車両用OS開発の総責任者であるジェームズ·カフナーのインタビューを見ると、トヨタで数十年勤めたかのように感じられる。彼はシリコンバレー出身だが、トヨタの哲学が溶け込まれているようだ。過去、イーロン·マスクも工場に問題が発生すると、工場の野戦ベッドで寝返りを打ちながら問題を解決した。
最後に、多様な分野が自動車産業に参入できるよう、韓国資本主義がさらに成熟しなければならない。企業間でも信頼を基盤に多様なビジネスモデルを試み、失敗も経験しなければならない。イーロン·マスクを作り出した米国の資本主義まではいかなくても、ソニーとホンダが新しい会社を作り、トヨタとソフトバンクが合弁会社を作り出す日本の資本主義は韓国より活発に見える。多様な形の企業が必要に応じて「合従連衡」することもできなければならない。新しい企業が自動車産業に「出師の表」を投げられるように、韓国の資本主義が自由になれば、ダイナミックな韓国人の気質から、その変化に十分対応できるのではないか。
https://monthly.chosun.com/client/news/viw.asp?ctcd=B&nNewsNumb=202301100027
翻訳:朴麗玉
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